6回目は西寺が尊敬してやまない
文
ほぼ同率のベスト5
松田聖子さんを僕が初めて意識したのは、小学1年生の夏。彼女の2ndシングル「青い珊瑚礁」が大ヒットして。そこから歌番組を観ればいつもスーパーアイドル“聖子ちゃん”が登場、みたいな世代です。なので聖子さんの楽曲を聴くのはドーナツ盤やLPからというよりもっぱらテレビ。今も特に個人的に思い入れがある聖子さん楽曲は、1985年1月にリリースされた「天使のウィンク」まで。歌番組で流れていた彼女のシングル曲に限られているというのが正直なところです。
松本隆作詞、大村雅朗作曲・編曲の「SWEET MEMORIES」を含めて、僕の好きな松田聖子楽曲、ほぼ同率ベスト5を最初に挙げると、呉田軽穂(
ポップミュージックの理想形
聖子さんがある時期からアーティストとして目標にしたであろう
個人的にはアルバム「Seiko」の中で、New Edition、New Kids On The Blockの立役者のモーリス・スターが携わってる楽曲は好きなんです。当時勢いに乗りまくっていたアイドルグループ・New Kids On The Blockの“やんちゃ担当”ドニー・ウォルバーグとのデュエット「The Right Combination」は今も鼻歌でよく歌いますしね。正直、リードボーカルのジョーダン・ナイトならともかく、ラブバラードはキャラクター的にもドニーには似合わなくて歌の絡みはどうもチグハグなんですが(笑)。ほかの曲もプロデューサー陣はフィル・ラモーン、ジョルジオ・モロダーと超豪華。当時のCBS Records社長トミー・モトーラもそれなりに力を注いでいたんだなあ、とも思います。ただ逆にアメリカ進出を成功させようという気合いと善意のあまり、外野のプロの意見を集めすぎたのかもしれません。船頭多くして船山に上る、じゃないですが。
その結果を知ったうえで改めて聴くと、「Marrakech ~マラケッシュ~」の魅力が際立つんですよね。つまり、松本隆さんによる歌詞面からのプロデュースと聖子さんのボーカルの相性です。そのうえで特にこの曲はあえて日本人に受けるウエットな部分、安易な情緒にまったく訴えることなく“アミューズメントパーク的”な高揚感と言葉の魔法のみで完結しているのが素晴らしくて。例えるなら「ジェットコースターに乗りました。楽しかったねー。さようなら」それだけ。後腐れなし。そのほうが実は難しいって思うんですよね。切なさを伝えるとか、歌手自身の熱いメッセージで感動させることよりも。自分にとってポップミュージックの理想の1つがこの曲にあります。
聖子さんもお気に入り
さて、1980年の衝撃的なデビューから3年後。1983年8月に
この曲、ともかくカラオケでもカバーでもプロ、アマチュア問わず絶大な人気を誇るんですが、僕も御多分に漏れず大好きでギタリストやピアニストと組んだアコースティックライブで何回かカバーしたことがあって。ともかく大村さんの作曲自体の完成度があまりにも高いので、どんなタイミングで歌っても場の空気がスピリチュアルで神聖なものに変わるんです。無数のヒット曲を持つ聖子さん自身も高い確率でコンサートのレパートリーに組み込んでいるお気に入りの曲らしいですが、それも納得のクラシック。
「Why? なぜに…」パターン
今回は作詞面に注目してみましょう。松本隆さんのプロデューサー的視点が一番発揮されるのは、アーティストとファンが年齢を重ねていく表現なのかなと思います。関係性を決定付ける“1行目のツカミ”がともかくすごいんですよね。連載2回目で紹介した
2番は英語詞になり「Don't kiss me baby We can never be」と始まるんですが、当時のソニー信濃町スタジオのチーフエンジニア・鈴木智雄さんが先述の書籍で語られた証言によると、レコーディングの際、聖子さんが英語の歌指導の方に「厳しくお願いします」と頼んでいたそうです。結果的に、作曲・編曲者としてこの名曲を生み出した大村雅朗さんも、聖子さんも1990年代に突入しようかというときに渡米されるわけですが、そういうエピソードを聞くとすべてはつながっているな、と。短期的に見れば失敗に終わったといえる聖子さんの海外への挑戦でしたが、彼女がパイオニアとして切り開いて来た現在までの長いキャリアは、そういった姿勢があってこそなのだなと畏敬の念しか浮かばないですね。
西寺郷太(ニシデラ ゴウタ)
1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。文筆家としても活躍し、代表作は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「伝わるノートマジック」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などさまざまなメディアに出演している。
しまおまほ
1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「
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