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ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」
ビル・モンロー・アンド・ザ・ブルーグラス・ボーイズシングル
リリース
ジャンル ブルーグラス
レーベル コロムビア・レコード
作詞・作曲 ビル・モンロー
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ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」(Blue Moon of Kentucky)は、1946年ブルーグラス・ミュージシャンのビル・モンローが書いたワルツで、同年にモンローのバンドであるブルーグラス・ボーイズによって録音された。その後、エルヴィス・プレスリーをはじめ、多数の歌手によって録音されている。

単に「ブルー・ムーン」と称されることもあるこの曲は、ケンタッキー州の公式ブルーグラス曲となっている。2002年には、モンローのバージョンが、アメリカ議会図書館全米録音資料登録簿 (National Recording Registry) に追加される50件のうちのひとつに選ばれた。2003年カントリー・ミュージック・テレビジョン (CMT) が作成した「最も偉大なカントリー音楽100曲 (100 Greatest Songs in Country Music)」では、11位にランクされた。

日本語では「ケンタッキーの青い月」という曲名で言及されることがある[1][2]

ビル・モンロー

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ビル・モンローは1946年にこの曲を書き、コロムビア・レコードのために9月16日に録音した。レコードがリリースされたのは1947年のはじめであった[3]。当時、ブルーグラス・ボーイズには、ボーカルとギターのレスター・フラットバンジョー奏者のアール・スクラッグスが在籍しており、彼らは後に独立してブルーグラス・バンドのフォギー・マウンテン・ボーイズ (Foggy Mountain Boys) を結成することになった。フラットもスクラッグスも、この曲の録音に参加しているが、歌っているのはビル・モンロー自身である。

「ブルーグラス・ワルツ」と称されるこの曲は、1947年に全国的なヒットとなり[4]、ほかのブルーグラス・ミュージシャンたちや、カントリー音楽、初期のロカビリーの楽曲としても大きな人気を呼んだ。この曲は『グランド・オール・オプリ』などの番組で広く好まれていたが[4]カール・パーキンスはその活動の初期からこの曲をアップテンポに編曲して演奏していた。

1954年スタンレー・ブラザーズがプレスリーの4拍子の編曲による、ブルーグラスの楽器を使った演奏を録音し、モンローとプレスリーのスタイルのギャップを巧みにつなぐアプローチをみせた。ビル・モンロー自身も、ふたつのスタイルを組み込んだ演奏でこの曲を再録音し、オリジナル同様の3/4拍子で曲を始め、途中でアップテンポの4/4拍子に切り替えて演奏するようになった。

エルヴィス・プレスリー

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「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」
エルヴィス・プレスリーシングル
A面 ザッツ・オール・ライト
リリース
規格 7" シングル
録音 1954年7月7日
ジャンル ロカビリー
時間
レーベル サン・レコード(オリジナル)
RCAビクター(再発盤)
作詞・作曲 ビル・モンロー
プロデュース サム・フィリップス
エルヴィス・プレスリー シングル 年表
ザッツ・オール・ライト
(1954年)
グッド・ロッキン・トゥナイト (Good Rockin' Tonight)
(1955年)
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サン・レコードから出す「ザッツ・オール・ライト」のカップリング曲を検討するなかで[5]ビル・ブラック (Bill Black) を介して「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」にたどり着いたのは1954年7月のことだった。スコティ・ムーアが「俺たちはみんな何かが必要だと思ってた」と言う、行き詰まりの状態がしばらく続いていた。「ビルが「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」を思いついたんだ。...俺たちはちょっと休憩を入れて、ビルがベースを弾きながら「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」を歌ったんだ、ビル・モンローの高いファルセットの声を真似をしながらね。エルヴィスがこれに加わり、一緒に歌い始めて」、ムーア自身も一緒に歌ったのだという[6]。プレスリー、ムーア、ブラックの3人は、サム・フィリップスに激励されながら、モンローの3/4拍子のゆっくりしたワルツを、アップビートな、ブルース風の、4/4拍子の曲に作り替えた。

この曲のごく最初の段階の演奏を聴いたときから、サン・レコードのオーナーだったサム・フィリップスは「おや、こりゃいいぞ、いいぞ。これでポップな曲になった!」と叫んだという[7]。サン・レコードから発売されたプレスリーの他のすべてのレコードと同様に、アーティストの名義は「エルヴィス・プレスリー、スコティ&ビル (ELVIS PRESLEY SCOTTY and BILL)」と記された[8]

デューイ・フィリップスが、プレスリーのデビュー盤の「ザッツ・オール・ライト」を WHBQ で最初にかけた夜、スリーピー・アイ・ジョン (Sleepy Eye John) は WHHM で、カップリングの「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」をかけた。WMPSのボブ・ニール (Bob Neal) もこのレコードをかけた。ポップ曲をおもにかけるDJたちも、「ザッツ・オール・ライト」や「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」を、より「イージーリスニング」的な、テレサ・ブリュワーナット・キング・コールトニー・ベネットなどのポップ曲の間に挟み込んで放送するようになった[9]

モンローの曲のプレスリーによるバージョンは、「ザッツ・オール・ライト」よりも上位に立ち、南部各地のチャートに2曲がいずれも登場するようになった[10]10月9日付の『ビルボード』誌は、カントリー&ウェスタン地域ベストセラー (C&W Territorial Best Sellers) のメンフィスのチャートにだけ「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」を記録し、6位としたが、このとき「ザッツ・オール・ライト」は第7位だった[11]10月23日には、「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」がメンフィス、ナッシュビル、ニューオリンズでトップ10に入り、「ザッツ・オール・ライト」はランク外になっていた[12]

当時サン・レコードに所属していたチャーリー・フェザース (Charlie Feathers) は、プレスリーが使用した編曲を思いついたのは自分だったと、しばしば述べている。

この曲は、後に2005年のテレビ・ミニシリーズ『Elvis』の一場面でも使用された。

その他の録音

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この曲は、数多くのアーティストたちが録音しており、プレスリーのほかにも、ジョン・フォガティパッツィー・クラインロニー・ホーキンス (Ronnie Hawkins)、ロリー・ギャラガージェリー・リー・ルイスリアン・ライムスポール・マッカートニーボックスカー・ウィリー (Boxcar Willie)、レイ・チャールズジェリー・リード (Jerry Reed)、ジミー・マーティン (Jimmy Martin)、ブライアン・セッツァーラウル・セイシャス (Raul Seixas) などが録音を残している。1980年にはザ・バンドリヴォン・ヘルムが、映画『歌え!ロレッタ愛のために』でこの曲を演奏した。

1995年、(ジョン・レノン没後の)当時生き残っていたビートルズの3人、ポール・マッカートニージョージ・ハリスンリンゴ・スターが、この曲の4/4拍子バージョンを即興で演奏し、この音源は最終的に『ザ・ビートルズ・アンソロジー』のボーナス・トラックDVDに収録された。なお、マッカートニーは、これより前の1991年に、「MTVアンプラグド」の演奏を収めた『公式海賊盤 (Unplugged (The Official Bootleg))』で、この曲を披露していた。

1980年代後半から1990年代はじめにかけて、放送されたSF番組『タイムマシーンにお願い』では、「メンフィス・メロディ (Memphis Melody)」の回に主人公サム・ベケット (Sam Beckett) がエルヴィス・プレスリーとして登場し、「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」を演奏する。ジョン・キャンディスティーヴ・マーティンは、1987年の映画『大災難P.T.A.』の中でこの曲を歌った。2002年に最初に放送されたテレビアニメキング・オブ・ザ・ヒル』のエピソード「The Bluegrass Is Always Greener」では、登場人物のジェフ・ブームハウアー (Jeff Boomhauer) がこの曲を歌う場面があり、歌声はヴィンス・ギルが担当した。

脚注

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  1. ^ “カントリー出身、魅力の歌声 石田美也が2枚目アルバム”. 毎日新聞・東京夕刊: p. 7. (2002年5月1日). "収録曲は「ケンタッキーの青い月」「ジョリーン」など"  - 毎索にて閲覧
  2. ^ 稲葉和裕. “「わが心の歌」第8話”. 稲葉和裕. 2014年5月16日閲覧。
  3. ^ Sleevenotes to Bill Monroe and his Bluegrass Boys, All the Classic Releases, 1937-1949, CD box set by JSP (2003).
  4. ^ a b Jerry Naylor and Steve Halliday (2007). The Rockabilly Legends; They Called It Rockabilly Long Before they Called It Rock and Roll. p. 39. ISBN 978-1-4234-2042-2 
  5. ^ Official legal title of Crudup's (and Elvis's) 'That's All Right'
  6. ^ Ken Burke and Dan Griffin (2006). The Blue Moon Boys - The Story of Elvis Presley's Band. Chicago Review Press. p. 20. ISBN 1-55652-614-8 
  7. ^ Burke, Griffin, p. 41
  8. ^ RCS Label Shot for Sun (Tenn.) 209”. Rockin' Country Style. 2014年5月16日閲覧。
  9. ^ Robert Johnson (1955年2月5日). “Thru the Patience of Sam Phillips Suddenly Singing Elvis Presley Zooms Into Recording Stardom”. Memphis Press-Scimitar. http://www.scottymoore.net/articles.html  Archived at http://www.scottymoore.net/
  10. ^ Elvis Presley's Sun Recordings”. Elvis Australia (2004年7月21日). 2007年8月17日閲覧。
  11. ^ “C&W Territorial Best Sellers”. Billboard 66 (41): p. 62. (1954年10月9日). https://books.google.co.jp/books?id=KSMEAAAAMBAJ&lpg=PA1&pg=PA62&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=false 
  12. ^ “C&W Territorial Best Sellers”. Billboard 66 (43): p. 44. (1954年10月23日). https://books.google.co.jp/books?id=nyEEAAAAMBAJ&lpg=PP1&pg=PT41&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q&f=false 

外部リンク

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