セルピン(セリンプロテアーゼインヒビター、セリンプロテアーゼ阻害剤、英: Serpin)は、最初にプロテアーゼ阻害効果を持つ事で同定された類似構造を持つタンパク質のスーパーファミリーで、全ての界の生物で発見される。セルピン (serpin) の略名は元々最初に同定されたセルピンがキモトリプシン様セリンプロテアーゼに対して働く (serine protease inhibitors) ために名付けられた造語である。特筆すべきはセルピンの珍しい活性機構であり、セルピンは立体構造の大きな変化を受ける事でプロテアーゼの活性中心を破壊し、標的を不可逆的に阻害する。この阻害機構は他の一般的なプロテアーゼ阻害剤が競合的阻害剤で、酵素と結合して活性中心を塞ぐ事で働くのと対照的である。 ほとんどのセルピンはタンパク質の分解反応を制御するが、中にはセルピンの構造を持ちながら酵素阻害剤として働かず、貯蔵(卵白中のオボアルブミンのように)や、ホルモンの輸送タンパク質(チロキシン結合グロブリンやトランスコルチン)のように運搬に関わったり、分子シャペロン(ヒートショックプロテイン47)として働くものもある。以上のようなタンパク質は阻害剤として働かないにも関わらず、進化学的に近縁なため、セルピンという語句はセリンプロテアーゼの阻害剤以外にも使われる。

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  • セルピン(セリンプロテアーゼインヒビター、セリンプロテアーゼ阻害剤、英: Serpin)は、最初にプロテアーゼ阻害効果を持つ事で同定された類似構造を持つタンパク質のスーパーファミリーで、全ての界の生物で発見される。セルピン (serpin) の略名は元々最初に同定されたセルピンがキモトリプシン様セリンプロテアーゼに対して働く (serine protease inhibitors) ために名付けられた造語である。特筆すべきはセルピンの珍しい活性機構であり、セルピンは立体構造の大きな変化を受ける事でプロテアーゼの活性中心を破壊し、標的を不可逆的に阻害する。この阻害機構は他の一般的なプロテアーゼ阻害剤が競合的阻害剤で、酵素と結合して活性中心を塞ぐ事で働くのと対照的である。 セルピンによるプロテアーゼ阻害は血液凝固反応や炎症といった数々の生化学行程を制御するため、セルピンに含まれるタンパク質は医学研究の対象となる。セルピンの構造変化はユニークであり、それゆえに構造生物学やタンパク質の折りたたみの解析においてもセルピンは興味深い研究対象とされる。構造変化による阻害機構はいくつかの利点を持つが、同時に欠点も抱えており、タンパク質の折りたたみ異常や不活性の長鎖重合体の形成のようなセルピン病 (serpinopathy) を起因する変異に対し脆弱である。セルピンの重合反応は活性を有する阻害剤の減少につながるのみならず、細胞死やをも起こしうる。 ほとんどのセルピンはタンパク質の分解反応を制御するが、中にはセルピンの構造を持ちながら酵素阻害剤として働かず、貯蔵(卵白中のオボアルブミンのように)や、ホルモンの輸送タンパク質(チロキシン結合グロブリンやトランスコルチン)のように運搬に関わったり、分子シャペロン(ヒートショックプロテイン47)として働くものもある。以上のようなタンパク質は阻害剤として働かないにも関わらず、進化学的に近縁なため、セルピンという語句はセリンプロテアーゼの阻害剤以外にも使われる。 (ja)
  • セルピン(セリンプロテアーゼインヒビター、セリンプロテアーゼ阻害剤、英: Serpin)は、最初にプロテアーゼ阻害効果を持つ事で同定された類似構造を持つタンパク質のスーパーファミリーで、全ての界の生物で発見される。セルピン (serpin) の略名は元々最初に同定されたセルピンがキモトリプシン様セリンプロテアーゼに対して働く (serine protease inhibitors) ために名付けられた造語である。特筆すべきはセルピンの珍しい活性機構であり、セルピンは立体構造の大きな変化を受ける事でプロテアーゼの活性中心を破壊し、標的を不可逆的に阻害する。この阻害機構は他の一般的なプロテアーゼ阻害剤が競合的阻害剤で、酵素と結合して活性中心を塞ぐ事で働くのと対照的である。 セルピンによるプロテアーゼ阻害は血液凝固反応や炎症といった数々の生化学行程を制御するため、セルピンに含まれるタンパク質は医学研究の対象となる。セルピンの構造変化はユニークであり、それゆえに構造生物学やタンパク質の折りたたみの解析においてもセルピンは興味深い研究対象とされる。構造変化による阻害機構はいくつかの利点を持つが、同時に欠点も抱えており、タンパク質の折りたたみ異常や不活性の長鎖重合体の形成のようなセルピン病 (serpinopathy) を起因する変異に対し脆弱である。セルピンの重合反応は活性を有する阻害剤の減少につながるのみならず、細胞死やをも起こしうる。 ほとんどのセルピンはタンパク質の分解反応を制御するが、中にはセルピンの構造を持ちながら酵素阻害剤として働かず、貯蔵(卵白中のオボアルブミンのように)や、ホルモンの輸送タンパク質(チロキシン結合グロブリンやトランスコルチン)のように運搬に関わったり、分子シャペロン(ヒートショックプロテイン47)として働くものもある。以上のようなタンパク質は阻害剤として働かないにも関わらず、進化学的に近縁なため、セルピンという語句はセリンプロテアーゼの阻害剤以外にも使われる。 (ja)
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  • Diagram of a domain-swapped serpin dimer (ja)
  • Diagram of a domain-swapped serpin trimer (ja)
  • Serpin mechanism diagram (ja)
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  • Diagram of a domain-swapped serpin dimer (ja)
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  • Serpin mechanism diagram (ja)
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  • セリンプロテアーゼやシステインプロテアーゼは2段階の分解機構を持つ。最初の段階において基質(青色)は触媒三残基(赤色)のシステインないしセリンによる攻撃を受け、アシル-酵素中間体を形成する。典型的な基質の場合は中間体が加水分解を受けて分解する。しかしながら、セルピンのRCLが攻撃を受けると、立体構造の変化(青い矢印)が触媒三残基を適切な位置から引っ張り出して、触媒反応の完了を妨害してしまう。 (ja)
  • セルピン(白色)の"反応中心ループ"(青色)がプロテアーゼ(灰色)に結合する様子。プロテアーゼが反応を試みるとそのプロテアーゼは不可逆的に不活性化する。 (ja)
  • ドメイン交換により生じたセルピン三量体。各単量体のRCLは自身の分子内に取り込まれる(緑色の単量体の赤色で示された部分)。 (ja)
  • セルピンの阻害機構は大きな立体構造の変化(S-R遷移)を伴う。セルピン(白色)はまず、露出されている反応中心ループ(青色)を利用してプロテアーゼ(灰色)と結合する。このループがプロテアーゼによって切断されると、RCLは速やかにAシート(薄青色)に取り込まれ、プロテアーゼの構造を変えて機能を阻害する。 (ja)
  • ドメイン交換により生じたセルピン二量体。 (ja)
  • セリンプロテアーゼやシステインプロテアーゼは2段階の分解機構を持つ。最初の段階において基質(青色)は触媒三残基(赤色)のシステインないしセリンによる攻撃を受け、アシル-酵素中間体を形成する。典型的な基質の場合は中間体が加水分解を受けて分解する。しかしながら、セルピンのRCLが攻撃を受けると、立体構造の変化(青い矢印)が触媒三残基を適切な位置から引っ張り出して、触媒反応の完了を妨害してしまう。 (ja)
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  • ドメイン交換によるセルピンの多量体形成 (ja)
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  • セルピン(セリンプロテアーゼインヒビター) (ja)
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  • セルピン(セリンプロテアーゼインヒビター、セリンプロテアーゼ阻害剤、英: Serpin)は、最初にプロテアーゼ阻害効果を持つ事で同定された類似構造を持つタンパク質のスーパーファミリーで、全ての界の生物で発見される。セルピン (serpin) の略名は元々最初に同定されたセルピンがキモトリプシン様セリンプロテアーゼに対して働く (serine protease inhibitors) ために名付けられた造語である。特筆すべきはセルピンの珍しい活性機構であり、セルピンは立体構造の大きな変化を受ける事でプロテアーゼの活性中心を破壊し、標的を不可逆的に阻害する。この阻害機構は他の一般的なプロテアーゼ阻害剤が競合的阻害剤で、酵素と結合して活性中心を塞ぐ事で働くのと対照的である。 ほとんどのセルピンはタンパク質の分解反応を制御するが、中にはセルピンの構造を持ちながら酵素阻害剤として働かず、貯蔵(卵白中のオボアルブミンのように)や、ホルモンの輸送タンパク質(チロキシン結合グロブリンやトランスコルチン)のように運搬に関わったり、分子シャペロン(ヒートショックプロテイン47)として働くものもある。以上のようなタンパク質は阻害剤として働かないにも関わらず、進化学的に近縁なため、セルピンという語句はセリンプロテアーゼの阻害剤以外にも使われる。 (ja)
  • セルピン(セリンプロテアーゼインヒビター、セリンプロテアーゼ阻害剤、英: Serpin)は、最初にプロテアーゼ阻害効果を持つ事で同定された類似構造を持つタンパク質のスーパーファミリーで、全ての界の生物で発見される。セルピン (serpin) の略名は元々最初に同定されたセルピンがキモトリプシン様セリンプロテアーゼに対して働く (serine protease inhibitors) ために名付けられた造語である。特筆すべきはセルピンの珍しい活性機構であり、セルピンは立体構造の大きな変化を受ける事でプロテアーゼの活性中心を破壊し、標的を不可逆的に阻害する。この阻害機構は他の一般的なプロテアーゼ阻害剤が競合的阻害剤で、酵素と結合して活性中心を塞ぐ事で働くのと対照的である。 ほとんどのセルピンはタンパク質の分解反応を制御するが、中にはセルピンの構造を持ちながら酵素阻害剤として働かず、貯蔵(卵白中のオボアルブミンのように)や、ホルモンの輸送タンパク質(チロキシン結合グロブリンやトランスコルチン)のように運搬に関わったり、分子シャペロン(ヒートショックプロテイン47)として働くものもある。以上のようなタンパク質は阻害剤として働かないにも関わらず、進化学的に近縁なため、セルピンという語句はセリンプロテアーゼの阻害剤以外にも使われる。 (ja)
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