抄録
1.我々は1948年以来調査研究をつゞけて来た本邦における唯一の既知のマレー糸状虫症流行地である八丈小島において, 保虫者の駆虫, 媒介蚊の成虫及び幼虫の駆除などのあらゆる実行可能な予防対策を行つて, その地域的な駆除の試みに着手した.2.1956年8月に, 4年ぶりで現地に赴いて調査した結果では, 66名の夜間検血で22名にミクロフィラリア陽性者を見出し, これらの保虫者にスパトニンを体重1kgあたり1日量6mgの割で10日分以上をあたえてその駆虫をすゝめた.3.媒介蚊駆除対策としては部落内にある31個の天水槽にメダカを計約500疋放養し, 部落内の各種の雨水だまり26ヵ所にDDTペーストをDDTとして水量の1p.p.m.の割合で混入したが, これに要した薬剤はDDTとして3g足らずにすぎなかつた.4.海岸にあるロックプール地帯のトウゴウヤブカ発生地には, 凡そ8万平方mの地帯にヘリコプターにより180kg(1平方mあたり2.25g)の割で10%DDT粉剤を撒布し, その幼虫の全滅をみた.さらに, 部落周辺部に対し90kgのDDT粉剤を同じくヘリコプターで撒布した.5.部落内の全民家25戸と小学校1棟にDDTペーストを用い, 壁面1平方mあたりDDTとして2gの割で残留噴霧を行い, 蚊, ハエ等の成虫駆除に顕著な効果をみた.所要薬剤量はDDTペーストとして約6kgであつた.6.同年12月に行つた再調査で, 薬剤内服の不徹底なためいぜん保虫者のあること, 約2ヵ月後からおそらく残留噴霧の効果が不足しはじめて, 蚊, ハエの活動が再開されたこと, 海岸のロックプール地帯にも再びトウゴウヤブカの発生がみられたこと, 部落内の水たまりにもボーフラが見出されたことなどがたしかめられ, 糸状虫の根絶をみるためには, これらの綜合的な対策を年に数回の割でくりかえし定期的に実施する必要があることを知つた.