抄録
脳損傷が引き起こす認知・行動障害は単一認知能力の単純な欠損(陰性症状)として出現することは少なく,多くの場合,行動・認知能力の変容(陰性症状と陽性症状の複合)として出現する。超複雑構造である大脳が,ある程度自律性を持つ複数の機能系から成っているため,これら複数の機能系の間に損傷機能系の活動低下と非損傷機能系の相対的な活動亢進という,複雑な力動関係が発生するためである。このような力動関係の破綻を表していると考えられるさまざまな症候群のうち,筆者が個人的に経験し,論文として発表したことのあるものを 4 種に大別し,その病態メカニズムをまとめた。
すなわち,(1) 上位神経水準と下位神経水準の統合・拮抗関係の破綻を示す症状,(2) 左右大脳半球の統合・均衡関係の破綻を示す症状,(3) 前頭葉機能と頭頂葉機能の統合・均衡関係の破綻を示す症状,そして (4) 言語機能における情報統合能力の破綻を示す症状である。