雲母
雲母(うんも[1]、うんぼ[1])は、ケイ酸塩鉱物のグループ名。層状珪酸塩(フィロ珪酸塩)鉱物の一種である[1]。きらら[1]、きらとも呼ばれる。特に電気関係の用途では、英語に由来するマイカの名前で呼ばれる[2]。英語のmicaはラテン語でmicare(輝くの意)を由来とする。
1997年、国際鉱物学連合(lntemational Mineralogical Association: IMA)の新鉱物および鉱物名委員会(Commission on New Minerals and Mineral Names: CNMMN)に設置された雲母小委員会(Mica Subcommittee)は、雲母鉱物(micas)の命名の最終報告を委員会に行い黒雲母の再定義などが行われた[3]。
成分・種類
編集雲母の化学式は一般的に I M2-3 □1-0 T4 O10 A2 で表される。
- I には主として K、Na、Ca が入るが、Ba、Rb、Cs、NH4 が入ることもある
- M には主として Al、Mg、Fe、Li、Ti が入るが、Mn、Cr、Zn、V が入ることもある
- □は空孔。
- T には主として Si、Al、Fe3+ が入るが、Be、B が入ることもある
- A には主として OH、F が入るが、Cl、O、S が入ることもある
純雲母(true mica)
編集上記の雲母小委員会(Mica Subcommittee)報告書では純雲母(true micas)の端成分化学組成と組成範囲としてまとめられた[3]。
2八面体
編集- 白雲母(muscovite) - KAl2AlSi3O10(OH)2
- アルミノセラドン石(aluminoceladonite) - KAl(Mg,Fe2+)□Si4O10(OH)2
- 鉄アルミノセラドン石(ferro-aluminoceladonite) - KAl(Fe2+,Mg)□Si4O10(OH)2
- セラドン石(celadonite) - KFe3+(Mg,Fe2+)□Si4O10(OH)2
- 鉄セラドン石(ferroceladonite) - KFe3+(Fe2+,Mg)□Si4O10(OH)2
- ロスコー雲母(roscoelite) - KV2□AlSi3O10(OH)22
- クロム雲母(chromphyllite) - KCr2□AlSi3O10(OH)2
- 硼素雲母(boromuscovite) - KAl2□BSi3O10(OH)2
- ソーダ雲母(paragonite) - NaAl2□AlSi3O10(OH)2
- セシウム雲母(nanpingite) - CsAl2□AlSi3O10(OH)2
- 砥部雲母(tobelite) - (NH4)Al2□AlSi3O10(OH)2、愛媛県砥部町にちなむ
3八面体
編集- 鉄雲母(annite) - KFe2+3AlSi3O10(OH)2
- 金雲母(phlogopite) - KMg3AlSi3O10(OH)2
- シデロフィライト(siderophyllite) - KFe2+2AlAl2Si2O10(OH)2
- イーストナイト(eastonite) - KMg2AlAl2Si2O10(OH)2
- 白水雲母(shirozulite) - KMn2+3AlSi3O10(OH)2、白水晴雄にちなむ
- ヘンドリクス雲母(hendricksite) - KZn3AlSi3O10(OH)2
- モントドライト(montdorite)※端成分でない - KFe2+1.5Mn2+0.5Mg0.5□0.5Si4O10F2
- 楊主明雲母(yangzhumingite): KMg2.5□0.5Si4O10F2、楊主明にちなむ
- 縞状雲母(tainiolite) - KLiMg2Si4O10F2
- ポリリシオ雲母(polylithionite) - KLi2AlSi4O10F2
- トリリシオ雲母(trilithionite)(端成分でない) - KLi1.5Al1.5AlSi3O10F2
- 益富雲母(masutomilite) - KLiAlMn2+AlSi3O10F2、益富壽之助にちなむ
- ノリッシュ雲母(norrishite) - KLiMn3+2Si4O12
- テトラフェリ鉄雲母(tetra-ferri-annite) - KFe2+3Fe3+Si3O10(OH)2
- テトラフェリ金雲母(tetra-ferriphlogopite) - KMg3Fe3+Si3O10(OH)2
- ソーダ金雲母(aspidolite) - NaMg3AlSi3O10(OH)2
- プリスワーカイト(preiswerkite) - NaMg2AlAl2Si2O10(OH)2
- エフェサイト(ephesite) - NaLiAl2Al2Si2O10(OH)2
脆雲母(brittle mica)
編集上記の雲母小委員会(Mica Subcommittee)報告書では脆雲母(brittle mica)の端成分化学組成と組成範囲としてまとめられた[3]。
2八面体
編集3八面体
編集- クリントン石(clintonite) - CaMg2AlAl3SiO10(OH)2
- ビティ雲母(bityite) - CaLiAl2BeAlSi2O10(OH)2
- アナンダ石(anandite) - BaFe2+3Fe3+Si3O10S(OH)
- 木下雲母(kinoshitalite) - BaMg3Al2Si2O10(OH)2、木下亀城にちなむ
- 弗素木下雲母(fluorokinoshitalite) - BaMg3Al2Si2O10F2、木下亀城にちなむ
層間欠損型雲母(interlayer-deficient mica)
編集上記の雲母小委員会(Mica Subcommittee)報告書では層間欠損型雲母(interlayer-deficient mica)の端成分化学組成と組成範囲としてまとめられた[3]。
2八面体
編集- イライト(illite)(系列名) - K0.65Al2.0□Al0.65Si3.35O10(OH)2
- 海緑石(glauconite)(系列名) - K0.8R3+1.33R2+0.67□Al0.13Si3.87O10(OH)2
- ブラマーライト(brammallite)(系列名) - Na0.65Al2.0□Al0.65Si3.35O10(OH)2
3八面体
編集- ウォンネサイト(wonesite)※端成分でない - Na0.5□0.5Mg2.5Al0.5AlSi3O10(OH)2
系列名
編集上記の雲母小委員会(Mica Subcommittee)報告書では、黒雲母(biotite)、海緑石(glauconite)、イライト、リチア雲母(リシア雲母、鱗雲母)、フェンジャイト、チンワルド雲母は系列名として提唱された[3]。
産出地
編集変成岩、酸性火成岩などに普通に含まれる。黒色のものには黒雲母以外のものもあるため、鑑定には化学的分析が必要である。
マイカの産状は大別して、3種類ある[4]。
性質・特徴
編集薄くはがれやすいこと(劈開)が特徴[1]。多くは六角板状の結晶で産する。モース硬度 2.5 - 3、比重 2.8 - 3.0。
シートには弾性、電気絶縁性、耐熱性などがある[6]。
表面は親水性であるが、カップリング材などで表面処理することで親油性とすることもできる[4]。
風化した雲母類鉱物は、放射性セシウムの134Cs、137Cs を吸着する[7][8]、この吸着現象は雲母中の K と Cs が置き換わるために生じていると考えられる[9]。
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用途
編集産業用では塗料、電材、化粧品、切削油などに使用されている[11]。
二酸化チタンで被覆された雲母は、無毒性、耐候性、耐光性、耐熱性、耐薬品性が優れており、真珠光沢をもつ顔料や塗料、化粧品に使用される[12]。
性質から、低融点金属の鋳造、樹脂成形等の離型剤、電気回路の絶縁体などに用いられる[4]。
古墳から土器の装飾として用いられる例が見られる[13]。神仙思想では、仙薬の一つと考えられていたようで、晋の時代に神仙術について記した『抱朴子』内編第十一などにも仙薬としての記載が見られる[13]。
塗料
編集二酸化チタンをコーティングした雲母(titan coated mica)はパール塗料[14]や絵具の金属色として使われる。
電材
編集ポリエチレンやガラス繊維の基材に雲母を接着したものをマイカテープといい、家電製品の電気絶縁用途で使用されている[15]。
発熱体を絶縁体の雲母板で挟んだ構造のヒーターはマイカヒーターと呼ばれ、ポット、炊飯器、アイロンなどの家庭用電化製品、暖房便座、OA機器、自動販売機、工業用ホットプレート、金型の保温などに利用されている[16]。
その他の用途
編集脚注
編集- ^ a b c d e 上原誠一郎「―粘土基礎講座I―年度の構造と化学組成 粘土科学 第40巻 第2号 100-111頁(2000年)
- ^ “マイカとは”. 岡部マイカ工業所 (2012年8月21日). 2013年1月9日閲覧。
- ^ a b c d e 上原誠一郎「雲母の命名―黒雲母は系列名―」 鉱物学雑誌 第28巻 第2号 83-86頁(1999年)
- ^ a b c d e f 俊一, 太田 (2005). “マイカの合成とその応用”. 粘土科学 44 (3): 124–128. doi:10.11362/jcssjnendokagaku1961.44.124 .
- ^ トピーマイカについて、トピー工業
- ^ 「雲母」 。
- ^ 「風化した雲母類粘土鉱物におけるセシウム吸着の第一原理計算による解析」 『日本地球化学会年会要旨集』 2014年度日本地球化学会第61回年会講演要旨集 セッションID:3E21, doi:10.14862/geochemproc.61.0_266
- ^ MUKAI, Hiroki; HATTA, Tamao; KITAZAWA, Hideaki: YAMADA, Hirohisa: YAITA, Tsuyoshi; KOGURE, Toshihiro, Speciation of radioactive soil particles in the Fukushima contaminated area by IP autoradiography and microanalyses Environmental Science & Technology
- ^ 青井裕介, 福士圭介, 森下知晃 ほか、「阿武隈花崗岩中の黒雲母によるセシウムの濃縮」 『日本地球化学会年会要旨集』 2012年度日本地球化学会第59回年会講演要旨集 セッションID:1P34, doi:10.14862/geochemproc.59.0.137.0
- ^ “難波屋おきた”. - stylefesta. アダチ伝統木版画財団. 2019年11月17日閲覧。
- ^ 【国際】責任ある雲母イニシアチブ発足。ロレアルなど欧米中韓印の化粧品や電気電子企業が参画 ニューラル サステナビリティ研究所 2023年2月14日閲覧。
- ^ 正躬, 西原、信雄, 岩根、淳一郎, 今井「雲母チタン顔料」『色材協会誌』第58巻第7号、1985年、419–423頁、doi:10.4011/shikizai1937.58.419。
- ^ a b 門田, 誠一「古墳出土の雲母片に関する基礎的考察 : 東アジアにおける相関的理解と道教思想の残映」『鷹陵史学』第25巻、1999年9月11日、21–57頁。
- ^ 雲母堂本舗無駄噺大系 - パール色材について私が知っている二、三の事柄 - 基本編
- ^ 絶縁用マイカテープの世界市場は2027年まで年平均成長率3%で推移する見込み PR TIMES 2023年2月14日閲覧。
- ^ イプロス マイカヒーター 2023年2月14日閲覧。
参考文献
編集- Rieder, M.; et al. (1998). “Nomenclature of the micas” (PDF). The Canadian Mineralogist (Mineralogical Association of Canada) 36 (3): 905-912. ISSN 0008-4476. NAID 80010636747 .
- 黒田吉益、諏訪兼位「4.4 雲母類」『偏光顕微鏡と岩石鉱物 第2版』共立出版、1983年、118-125頁。ISBN 4-320-04578-5。
- 松原聰『日本の鉱物』学習研究社〈フィールドベスト図鑑〉、2003年、214-218頁。ISBN 4-05-402013-5。
- 松原聰、宮脇律郎『日本産鉱物型録』東海大学出版会〈国立科学博物館叢書〉、2006年。ISBN 978-4-486-03157-4。
- 青木正博『鉱物分類図鑑 : 見分けるポイントがわかる』誠文堂新光社、2011年、158-160頁。ISBN 978-4-416-21104-5。
関連項目
編集外部リンク
編集- Mica Group (英語), MinDat.org, 2012年8月17日閲覧。
- Mica - Encyclopedia of Earth「雲母」の項目。
- 福岡正人. “Mica〔雲母〕グループ”. 地球資源論研究室. 広島大学大学院総合科学研究科. 2012年8月17日閲覧。
- 上原誠一郎. “1.粘土の構造と化学組成”. 粘土基礎講座I. 日本粘土学会. 2012年8月17日閲覧。
- “安全データシート マイカ(別名:含水ケイ酸アルミニウムカリウム、雲母粉、白雲母)”. 厚生労働省. 2023年11月18日閲覧。