からす座
からす座(からすざ、烏座、Corvus)は、トレミーの48星座の1つ。日本では春の南の空に見ることができる星座で、β星、γ星、δ星、ε星の4つの3等星で構成される四角形の特徴的な並びが目立つ。
Corvus | |
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属格形 | Corvi |
略符 | Crv |
発音 | [ˈkɔrvəs]、属格:/ˈkɔrvaɪ/ |
象徴 | the Crow/Raven |
概略位置:赤経 | 12 |
概略位置:赤緯 | −20 |
正中 | 5月10日21時 |
広さ | 184平方度[1] (70位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 10 |
3.0等より明るい恒星数 | 4 |
最輝星 | γ Crv(2.58等) |
メシエ天体数 | 0 |
確定流星群 | Corvids (6月26日) |
隣接する星座 |
おとめ座 コップ座 うみへび座 |
主な天体
編集恒星
編集以下の恒星には、国際天文学連合によって正式な固有名が定められている[2]。
- α星:4等星[3]。「天幕」を意味するアラビア語に由来する「アルキバ (Alchiba) 」という固有名を持つ[4]。
- β星:2.64等とγ星よりわずかに暗い3等星[5]。チェコ生まれの天文学者アントニーン・ベチュヴァーシュによって付けられた原義不明の「クラズ (Kraz) 」という固有名を持つ[4]。
- γ星:2.58等[6]で、からす座で最も明るく見える恒星。「翼」を意味するアラビア語に由来する「ギェナー (Gienah) 」という固有名を持つ[4]。はくちょう座ε星も同名で呼ばれていたため、かつては「ギェナー・コルビ (Gienah Corvi) 」と呼んで区別されていたが、2016年にGienahが正式にからす座γ星の固有名とされた[2]。
- δ星:3等星[7]。アラビア語で「カラスの翼」を意味する janāḥ al-ghurāb に由来する「アルゴラブ (Algorab) 」という固有名を持つ[4]。
星団・星雲・銀河
編集からす座には顕著な天体が少ない。
由来と歴史
編集少なくとも紀元前1100年頃のバビロニアの星図では、からす座の星々は隣のコップ座の星々と共にワタリガラス (MUL.UGA.MUSHEN) の中に組み入れられていたと思われる。イギリスの研究者ジョン・ロジャース (John H. Rogers) は、バビロニアの大要『MUL.APIN』において、からす座やコップ座と隣接するうみへび座が冥界の神Ningizzidaを表していたことに着目し、「うみへび座は冥界の門を表しており、うみへび座に隣り合うからす座とコップ座の星々は死の象徴であった」としている[8]。からす座とコップ座、うみへび座の組み合わせはギリシアに引き継がれ[8]、中近東から古代ギリシャや古代ローマに広がったミトラ教にも受容された[9]。
神話
編集紀元前3世紀のアレクサンドリアの学者エラトステネースの『カタステリスモイ (希: Καταστερισμοί) 』や帝政ローマ期初期の詩人オウィディウスの『祭暦 (羅: Fāstī) 』は、アポローンに仕えたカラスについて以下のような話を伝えている[10]。ゼウスに生け贄を捧げようとしたアポローンは、配下のカラスに水を汲みに行くように命じた。カラスは水を汲みに行く途中に、まだ熟していないイチジクの実を付けた木を見つけた。数日間待って熟した実をたいらげたカラスは、アリバイ工作のため泉にいた蛇を捕まえてアポローンの下に連れていき、蛇に邪魔されて水を汲めなかったと言い逃れしようとした。しかしアポローンはその嘘を見抜き、カラスに渇きの罰を与えた。そしてアポローンはこの事件を遺すため、カラス、盃と蛇を一緒に空へ置くこととした。このエピソードでは、盃はコップ座、蛇はうみへび座となっている[10]。
またオウィディウスは彼の『変身物語 (羅: Metamorphōsēs) 』で、アポローンとカラスの別のエピソードを伝えている[10]。カラスは真っ白できれいな鳥で、人の言葉を喋っていた。ところが、このカラスは、アポローンの恋人コローニスが別の男と密会しているという情報をアポローンに伝えた。アポローンは怒り、カラスを呪って黒く変えた[10]。
なお「アポローンがカラスを天に打ち付けた4本の釘が、からす座で四辺形を作る4つの星である」とする話が巷間広まっている[11][12]が、これは1980年代から[13]日本でのみ広まっている説である。
呼称と方言
編集石川県珠洲市では「ホカケボシ(帆掛け星)」という呼称が伝わっている[14]。また、むじな(タヌキ)の毛皮を剥いで広げた姿にたとえた「カワハリ(皮張り)」「カワハリボシ(皮張り星)」「カワハリサマ(皮張り様)」という呼称が、奥多摩、秩父、山梨や神奈川の山間部に伝わっている[14][15]。道東・道北のアィヌでは「レラ・チャロ(風の口)」と呼ばれ、その位置の変化から季節風の向きを知ったという。道央・道南では「カヤノカ・ノチゥ(帆の形の星)」と呼ばれ、弁財船に依る和人との交易の季節を知ったという[16][17]。
出典
編集- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ a b “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. WGSN. IAU (2022年4月4日). 2022年7月6日閲覧。
- ^ "alp Crv". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月22日閲覧。
- ^ a b c d Kunitzsch, Paul; Smart, Tim (2006). A Dictionary of Modern Star Names. Sky Publishing. p. 31. ISBN 978-1-931559-44-7
- ^ "bet Crv". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月22日閲覧。
- ^ "gam Crv". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月22日閲覧。
- ^ "del Crv". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月22日閲覧。
- ^ a b Rogers, J.H. (1998-02). “Origins of the ancient constellations: I. The Mesopotamian traditions”. Journal of the British Astronomical Association (British Astronomical Association) 108 (1): 9-28. Bibcode: 1998JBAA..108....9R. ISSN 0007-0297.
- ^ Rogers, J.H. (1998-02). “Origins of the ancient constellations: II. The Mediterranean traditions”. Journal of the British Astronomical Association (British Astronomical Association) 108 (1): 79-89. Bibcode: 1998JBAA..108...79R. ISSN 0007-0297.
- ^ a b c d Ian Ridpath. “Star Tales - Corvus and Crater”. 2014年2月4日閲覧。
- ^ 沼澤茂美、脇屋奈々代『星座神話クラブ』誠文堂新光社、1996年2月15日、91頁。ISBN 9784416296035。
- ^ 沼澤茂美、脇屋奈々代『四季の星座神話』誠文堂新光社、2014年7月9日、61頁。ISBN 978-4416114575。
- ^ 山田卓『春の星座博物館』(第二版第一刷)地人書館、1993年5月15日、121頁。ISBN 4-8052-0160-6。
- ^ a b 北尾浩一『日本の星名事典』原書房、2018年5月30日、310-311頁。ISBN 978-4-562-05569-2。
- ^ 野尻抱影『星三百六十五夜』(新装版)恒星社厚生閣、1988年8月30日、8頁。ISBN 4-7699-0623-4。
- ^ 末岡外美夫『アイヌの星』 第12巻、旭川振興公社〈旭川叢書〉、1979年10月、111-119頁。 NCID BN01661499。
- ^ 末岡外美夫『人間達(アイヌタリ)のみた星座と伝承』末岡由喜江、札幌、2009年1月、268-279頁。 NCID BA88591211。