β-カルボリン(ベータ-カルボリン、β-carboline, 9H-pyrido[3,4-b]indole)は、β-カルボリン類として知られる化合物の一分類の基本骨格である有機アミン

β-カルボリン
識別情報
CAS登録番号 244-63-3
PubChem 64961
ChemSpider 58486
J-GLOBAL ID 200907028215333770
MeSH norharman
ChEMBL CHEMBL275224
特性
化学式 C11H8N2
モル質量 168.19 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

薬理学

編集

β-カルボリンアルカロイドは、植物動物に幅広く存在し、しばしばモノアミン酸化酵素阻害剤 (MAOI) として作用する。

つる植物バニステリオプシス・カーピ (アヤワスカとして知られる) の成分である、β-カルボリン類のハルミンハルマリン、およびテトラヒドロハルミン英語版は、南米先住民族の土着の幻覚剤であるアヤワスカの薬理活性において中心的な役割を果たしている。β-カルボリン類がモノアミン酸化酵素を阻害し、消化管でのジメチルトリプタミン (DMT)の分解を抑えることによって、ジメチルトリプタミンは経口摂取で向精神活性を示すことができる。いくつかのβ-カルボリン類、特にトリプトリン英語版ピノリンは、人体において自然に形成される。β-カルボリンは、ベンゾジアゼピン受容体に結合でき、逆作動薬効果を誘導する。

またハルマンはたばこの煙に含まれるMAOIで[1]、焼かれた肉にも含まれる神経毒である[2]

アメリカ合衆国特許番号5591738では、β-カルボリンの投与により様々な化学物質依存性を治療する方法が解説されている[3]

構造

編集

β-カルボリンはインドールアルカロイドに分類され、1つのインドール骨格と様々な側鎖で構成される[4]。β-カルボリンの構造はトリプタミンの構造と類似しており、トリプタミンのエチルアミン側鎖が一炭素介してインドール環に再び結合し三環式の構造となっている。実際に、β-カルボリンは、類似のトリプタミン類から同様の経路で生合成されると考えられている(ピクテ・スペングラー反応を参照)。β-カルボリンの3つ目の環にはいくつかの異った飽和度が可能であり、下図の構造式に赤と青で二重結合を示している。

 
Substituted beta-carbolines (structural formula)

β-カルボリン類の例

編集

下記の表に重要なβ-カルボリン類の内いくつかを示す。

一般名
赤色の結合
青色の結合
R1 R6 R7 構造
β-カルボリン
×
×
H
H
H
 
トリプトリン英語版    
H
H
H
 
ピノリン    
H
OCH3
H
 
ハルマン
×
 
CH3
H
H
 
ハルミン
×
×
CH3
H
OCH3
 
ハルマリン
×
 
CH3
H
OCH3
 
テトラヒドロハルミン英語版    
CH3
H
OCH3
 

自然界での存在

編集

現在までに、64の既知のβ-カルボリンアルカロイドが、少なくとも8つの植物ファミリーに広がっている[3]ペガヌム・ハルマラ英語版(シリアン・ルー)の種子には、β-カルボリンが多く含まれており、2-6%のアルカロイドを含み、ほとんどはハルマリンである[5][信頼性要検証]。また、ハルミンとハルマリンは、海洋生物、昆虫、哺乳類、またヒトの生体内など、自然界に広く存在する[6]

ハルマンは、コーヒー[7]、たばこの煙[1]、調理された肉などにも含まれる[2]

サソリクチクラにβ-カルボリン類が存在することにより、サソリの外皮はブラックライトなどで作り出される特定の波長の紫外線に曝されると蛍光を発することが知られている[8]

いくつかのβ-カルボリン類は、痙攣や不安惹起作用、記憶増強作用などベンゾジアゼピン系と逆の作用を示す[9]

出典

編集
  1. ^ a b Herraiz, Tomas; Chaparro, Carolina (2005). “Human monoamine oxidase is inhibited by tobacco smoke: β-carboline alkaloids act as potent and reversible inhibitors”. Biochemical and Biophysical Research Communications 326 (2): 378. doi:10.1016/j.bbrc.2004.11.033. PMID 15582589. 
  2. ^ a b Louis, E. D.; Zheng, W; Jiang, W; Bogen, K. T.; Keating, G. A. (2007). “Quantification of the neurotoxic beta-carboline harmane in barbecued/grilled meat samples and correlation with level of doneness”. Journal of Toxicology and Environmental Health, Part A 70 (12): 1014–9. doi:10.1080/15287390601172015. PMC 4993204. PMID 17497412. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4993204/. 
  3. ^ a b US 5591738  "Method of treating chemical dependency using β-carboline alkaloids, derivatives and salts thereof."
  4. ^ Ratsch, Christian (2005). The Encyclopedia of Psychoactive Plants: Ethnopharmacology and its Applications. Park Street Press. ISBN 978-0892819782 
  5. ^ Amazing Nature. “Syrian Rue”. 2011年3月30日閲覧。
  6. ^ Patel, K; Gadewar, M; Tripathi, R; Prasad, SK; Patel, Dinesh Kumar (2012). “A review on medicinal importance, pharmacological activity and bioanalytical aspects of beta-carboline alkaloid “Harmine””. Asian Pacific Journal of Tropical Biomedicine 2 (8): 660–664. doi:10.1016/S2221-1691(12)60116-6. PMC 3609365. PMID 23569990. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3609365/. 
  7. ^ Herraiz, T; Chaparro, C (2006). “Human monoamine oxidase enzyme inhibition by coffee and beta-carbolines norharman and harman isolated from coffee”. Life Sciences 78 (8): 795–802. doi:10.1016/j.lfs.2005.05.074. PMID 16139309. 
  8. ^ Stachel, Shawn J; Scott A Stockwell and David L Van Vranken (1999). “The fluorescence of scorpions and cataractogenesis”. Chemistry & Biology 6: 531–539. doi:10.1016/S1074-5521(99)80085-4. 
  9. ^ Venault P, Chapouthier G (2007). “From the behavioral pharmacology of β-carbolines to seizures, anxiety, and memory”. ScientificWorldJournal 7: 204–23. doi:10.1100/tsw.2007.48. PMID 17334612. http://www.thescientificworld.co.uk/doi/getDoi.asp?doi=10.1100/tsw.2007.48. 

関連項目

編集

外部リンク

編集