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[[File:電波系.jpg|thumb|250px|[[wikt:支離滅裂|支離滅裂]]な[[主義]][[主張]]を喧伝した[[チラシ]]は電波[[ビラ]]/電波[[文書]]と呼ばれ、公共物への[[貼り紙]]や[[駅前]]のビラ配りに紛れていることが多い。<small>([[2016年]][[10月]]に[[大阪府]][[京橋駅 (大阪府)|京橋駅]]付近にて撮影)</small>]]
 
'''電波系'''(でんぱけい)は、[[wikt:荒唐無稽|荒唐無稽]]な[[妄想]]や主張を周囲に向かって公言する者のことを指す[[スラング]]。他に「[[電波]]」「デンパ」「デムパ」などと表記されることもある。
支離滅裂な主義主張を喧伝する電波ビラの典型。かつて[[東京メトロ銀座線]]で湊昌子(港雅子)という女性が「'''トリコじかけの明け暮れ'''」と書かれた電波ビラを配布しており、これに触発された[[ガロ系|特殊漫画家]]の[[根本敬]]は雑誌『[[宝島30]]』に連載したコラム『[[人生解毒波止場]]』や著書『夜間中学―トリコじかけの世の中を生き抜くためのニュー・テキスト』などを通じてこの言葉を広めた。また根本のフォロワーである[[電気グルーヴ]]の[[石野卓球]]も[[1995年]]にリリースした[[シングル]]『[[虹 (電気グルーヴの曲)|虹]]』で「'''トリコじかけにする'''」という[[フレーズ]]を用いている。]]
'''電波系'''(でんぱけい)は、[[wikt:荒唐無稽|荒唐無稽]]な[[妄想]]や主張を周囲に向かって公言する者のことを指す[[スラング]]。他に「[[電波]]」「デンパ」「デムパ」などと表記されることもある。
 
電波の送受信、交信は「[[ゆんゆん]]」「よんよん」「やんやん」という[[擬音]]で表現される<ref>これは[[宗左近]]が作詞をした[[福島県立清陵情報高等学校]]校歌『宇宙の奥の宇宙まで』が由来である。宗曰く「宇宙語」。歌詞に則れば発信が「ゆんゆん」受信が「よんよん」交信が「やんやん」</ref>。
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このような被害妄想の発現としての「電波」は、[[1981年]]([[昭和]]56年)の[[深川通り魔殺人事件]]の犯人が、自らの行動を「'''電波'''が命令した」と証言した<ref>「私が事件を引き起こしたのは、とても世間一般の常識では考えることのできない非人間的な、人間に対して絶対に行うべきではない、普通の人であったら一週間ももたないうちに神経衰弱になるだろう、心理的電波・テープによる男と女のキチガイのような声に、何年ものあいだ計画的に毎日毎晩、昼夜の区別なく、一瞬の休みもなく、この世のものとは思えない壮絶な大声でいじめられ続けたことが、原因なのであります」犯人が初公判で読み上げた書状より</ref>ことで一般にも知られるようになってきた。
 
もっとも、一般化した「電波・電波系」という用語の使用法はこういった厳密な医学的定義([[統合失調症]]の診断など)に沿ったものではなく、単におかしな主張をする人や、社会常識に当てはまらない行動を取る人にまで用いられる。
 
そのような意味での電波系の使用は、[[サブカルチャー]]や[[おたく|オタク]]系の媒体で用いられることの多い表現で、電波系な人々と長期に渡ってやりとりを続けた『[[宝島30]]』『[[別冊宝島]]』などを出版していた[[宝島 (雑誌)|宝島編集部]]、また電波系な人を国内のみならず[[大韓民国|韓国]]・[[朝鮮民主主義人民共和国|北朝鮮]]にまで捜し求めた[[ガロ系|特殊漫画家]]の[[根本敬]]、自身がこのような症状に苛まれているとする[[鬼畜系]][[著作家|ライター]]の[[村崎百郎]]<ref>村崎は虚実交えた電波系の寄稿を行った末、そのような表現にひきつけられた読者により殺害された。</ref>らの活動が背景にある<ref>根本[1995],村崎・根本[1996],『あなたの隣の電波さん』,『隣のサイコさん』他</ref>。彼らや創作の中で電波系を表現した者達により、[[1990年代]]前半より「電波」・「電波系」という言葉は広がっていった。
 
== 創作に表れた電波 ==
1936年、日本の古典SF『[[宇宙の彼方へ]]』([[西森久記]])において敵を追い払うために戦車の『'''毒電波'''』が使われる<ref>『宇宙の彼方へ 前篇 (実在境横断記)』 p.121 西森久記 1936年 [https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1028320/1/74]</ref>。
[[漫画家]]・[[イラストレーター]]の[[渡辺和博]]は『[[ガロ (雑誌)|ガロ]]』[[1980年]][[9月]][[号]]に『'''毒電波'''』という、させられ体験による「電波の攻撃に苦しむ人」が登場する漫画作品を発表しているが<ref>[https://www.1101.com/editor/2008-01-29.html 手塚能理子インタビュー]ほぼ日刊イトイ新聞 2008年01月29日付</ref>、これは被害を受ける側としての話だけでなく、電波を使って他者を制御する、という「させる側」としての電波表現も現れている。[[ガロ系|特殊漫画家]]の[[根本敬]]はこの漫画を読んだ後、実際に「電波」の攻撃を受けている人々に出会って驚き、自著で「電波」の存在を広めた<ref>[[根本敬]]は「荒唐無稽な主張をする」という意味で「電波」という言葉を始めて使用した作家に[[渡辺和博]]を挙げている。{{Bquote|──根本さんがこうした、過剰でつじつまの合わない主義主張を喧伝する、いわゆる“電波”な人や文書に、関心を持つようになったきっかけって、何なんですか?<br />'''根本''' まあ一番最初に“電波”って言い方を意識したのは……そういうことを周囲で最初に言い出した人っていうのは渡辺和博さんだよ。たしかあの人がだいぶ前に「毒電波」って漫画を書いていたんですよ。彼の知り合いの知り合いのマンションの下に住んでるオバサンが「いつも上の階の向かいの住人が毒電波を送ってくる」って文句言ってて……結局いつまでたっても電波が止まらないから、最後にはそのオバサン、引っ越していっちゃう。たしかそういう話でした。恐らくそれも渡辺さんの身近で実際にあった話なんだと思うよ。そしたらその後に、例のK俣軍司の通り魔事件が起こって。<br />──メソメソ電波とニヤニヤ電波に、身体を乗っ取られたっていう話ですよね。<br />'''根本''' で、そのあたりから“電波”って言い方がポツンポツンと出はじめたんじゃないかなあ。|||[[根本敬]]+[[村崎百郎]]『電波系』[[太田出版]] [[1996年]] 122頁}}{{Bquote|──『人生解毒波止場』は電波喫茶のママさんとかホンモノの人が多いですよね。<br />'''根本''' こういった意味合いとかニュアンスで「電波」という言葉を最初に使ったのは、オレの知る限り渡辺和博さんなんですよ。渡辺さんの漫画の中で「毒電波」っていう、電波の攻撃に苦しめられる団地の主婦を描いた作品があったのね。面白いんだけど、当時はオレ自身、イマひとつ、「電波」ってよくわからなかったの。でも、それから四~五年して銀座線のなかで、あの港雅子さんっていう、電波チラシのオバさんに会って「あ、これか」と気づいた。それからまた七年後くらいに村崎さんに会う。|||根本敬「村崎さんには“頑張れ”という言葉が相応しい、というか、これしかない」[[アスペクト (企業)|アスペクト]]編『村崎百郎の本』[[2010年]] 322-323頁}}</ref>。
 
1970年代、[[BCL#日本での経緯|BCLブーム]]の中で、[[日経流通新聞]](現[[日経MJ]])と「日経広告手帖」が『'''[[高感度人間]]'''』という言葉を広告業界に広める<ref>『日本経済新聞社110年史』 日本経済新聞社 1986年</ref>。1977年春、[[西武百貨店|西武]]がそれを受けて『感度はいかが?ピッ。ピッ。』という広告を出す<ref>『日本百貨店協会会報 (976)』 p.17 日本百貨店協会 1977年 [https://dl.ndl.go.jp/pid/2246447/1/10]</ref>。
 
[[漫画家]]・[[イラストレーター]]の[[渡辺和博]]は『[[ガロ (雑誌)|ガロ]]』[[1980年]][[9月]][[]]に『'''毒電波'''』という、させられ体験による「電波の攻撃に苦しむ人」が登場する漫画作品を発表しているが<ref>[https://www.1101.com/editor/2008-01-29.html 手塚能理子インタビュー]ほぼ日刊イトイ新聞 2008年01月29日付</ref>、これは被害を受ける側としての話だけでなく、電波を使って他者を制御する、という「させる側」としての電波表現も現れている。[[ガロ系|特殊漫画家]]の[[根本敬]]はこの漫画を読んだ後、実際に「電波」の攻撃を受けている人々に出会って驚き、自著で「電波」の存在を広めた<ref>[[根本敬]]は「荒唐無稽な主張をする」という意味で「電波」という言葉を始めて使用した作家に[[渡辺和博]]を挙げている。{{Bquote|──根本さんがこうした、過剰でつじつまの合わない主義主張を喧伝する、いわゆる“電波”な人や文書に、関心を持つようになったきっかけって、何なんですか?<br />'''根本''' まあ一番最初に“電波”って言い方を意識したのは……そういうことを周囲で最初に言い出した人っていうのは渡辺和博さんだよ。たしかあの人がだいぶ前に「毒電波」って漫画を書いていたんですよ。彼の知り合いの知り合いのマンションの下に住んでるオバサンが「いつも上の階の向かいの住人が毒電波を送ってくる」って文句言ってて……結局いつまでたっても電波が止まらないから、最後にはそのオバサン、引っ越していっちゃう。たしかそういう話でした。恐らくそれも渡辺さんの身近で実際にあった話なんだと思うよ。そしたらその後に、例のK俣軍司の通り魔事件が起こって。<br />──メソメソ電波とニヤニヤ電波に、身体を乗っ取られたっていう話ですよね。<br />'''根本''' で、そのあたりから“電波”って言い方がポツンポツンと出はじめたんじゃないかなあ。|||[[根本敬]]+[[村崎百郎]]『電波系』[[太田出版]] [[1996年]] 122頁}}{{Bquote|──『人生解毒波止場』は電波喫茶のママさんとかホンモノの人が多いですよね。<br />'''根本''' こういった意味合いとかニュアンスで「電波」という言葉を最初に使ったのは、オレの知る限り渡辺和博さんなんですよ。渡辺さんの漫画の中で「毒電波」っていう、電波の攻撃に苦しめられる団地の主婦を描いた作品があったのね。面白いんだけど、当時はオレ自身、イマひとつ、「電波」ってよくわからなかったの。でも、それから四~五年して銀座線のなかで、あの港雅子さんっていう、電波チラシのオバさんに会って「あ、これか」と気づいた。それからまた七年後くらいに村崎さんに会う。|||根本敬「村崎さんには“頑張れ”という言葉が相応しい、というか、これしかない」[[アスペクト (企業)|アスペクト]]編『村崎百郎の本』[[2010年]] 322-323頁}}</ref>。
 
[[デヴィッド・クローネンバーグ]]による[[1981年]]発表の映画『[[スキャナーズ]]』は、妊婦用睡眠薬の[[副作用]]により他者の思考が脳内に強制的に聞こえるようになった主人公らスキャナーが、意識を集中することで他者の神経に乗り移り、その行動を制御、果ては電話回線を通して電子機器の破壊まで行うものであった。このスキャナーズにおける、させられる、被害としての電波ではなく、相手を制御する・加害手法としての電波の使用は、日本の文芸作品に取り入れられていく。
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高橋:月島兄妹は同じ大槻ケンジでもどっちかと『くるぐる使い』の方なんですよ。そこに収められている『キラキラと輝くもの』という短編のなかに兄妹が出てきて、兄が妹に手を出して妹がおかしくなるんです。キャラクターはそちらだと思います。どちらも電波が出てくる話です。たしかに戦闘シーンのイメージとしては『オモイデ教』の方が強く入っていると思いますけど」<ref name=tinamix1.30>[http://www.tinami.com/x/interview/04/page1.html TINAMIX Vol. 1.30 Leaf 高橋龍也&原田宇陀児インタビュー]</ref>}}。この作中において、思考制御を引き起こす力は'''毒電波'''と表現されている<ref>元々、同作における電波能力を持つ者は、月島兄妹の妹である月島瑠璃子で、[[超感覚的知覚|ESP]]の一種[[テレパシー]]による意思や感情の交信として電波を用いていた。彼女は「電波を集めている」「電波、届いた?」のセリフに代表されるように単なる“電波”としてそれを語る。一方、その妹と交わることで電波能力を開花させた兄拓也は、他者を操作・攻撃する手段としてそれを用い、そのような攻撃的電波の使用を毒電波と表現して区別している。</ref>。雫は[[ビジュアルノベル|ヴィジュアルノベル]]<ref>[[ビジュアルノベル|ヴィジュアルノベル]]は[[ゲームブック]]に影響を受けて作られた、チュンソフトの[[弟切草]]・[[かまいたちの夜]]が創り上げた[[サウンドノベル]]の様式を、改良して持ち込んだもの。</ref>という能動的に選択する小説とでもいうべき表現形態を十八禁美少女ゲームの業界に持ち込み、業界に大きな影響を与え、毒電波という語が、念により他者の思考を制御・脳神経を破壊し、対象を電波系と化すものとして広まることとなった<ref>宮本直毅 『エロゲー文化研究概論』130頁</ref>。
 
このような他者からの思考伝播・制御を防ぐものとして、[[1927年]]に[[ジュリアン・ハクスリー]]は『The Tissue-Culture King』において金属で頭部を包むことでテレパシーを防ぐ防具を発案しており、これが[[アルミ箔]]で頭部を包む[[ティンホイル・ハット]]([[:en:Tin foil hat|Tin foil hat]])として現代化し、日本でいうところの電波系の人を指す表象として定着している。
 
== 関連作品 ==
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* 同『[[君と彼女と彼女の恋。]]』: 発売元: [[Nitroplus]] (2013/8)
* [[少年漫画]]『[[電波教師]]』: 著者: [[東毅]]、出版社: [[小学館]] (2011.11-2017.3)
* [[PlayStation 2]]用ソフト[[聖剣伝説4]]:発売:[[スクウェア・エニックス]]
 
== 脚注 ==
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* [[村崎百郎]] - 生まれつき[[神]]や[[悪魔]]の声を「'''[[幻覚|電波]]'''」として受信する特異体質であると自称し、電波系にまつわる体系的な考察を行った単行本『'''電波系'''』を[[根本敬]]との共著で上梓する。その後も村崎は虚実交えた寄稿を行った末、そのような表現にひきつけられた読者により[[2010年]][[7月]]に殺害された。
* [[幻の名盤解放同盟]] - [[根本敬]]によって主宰されている[[廃盤]][[レコード]]の復刻活動を行っているユニットであるが、[[根本敬|因果者]]探訪から[[旅行ガイドブック]]執筆まで活動の幅は広く、取材の過程で[[村崎百郎]]を輩出するなど電波系との関わりも深い。
* [[鬼畜系]] - かつて電波系という概念は[[鬼畜系#サブカルチャーにける鬼畜系|鬼畜系サブカルチャー]]のひとつに位置づけられていた。
* [[きちがい]] - 電波系の類義語であるが、[[放送禁止用語]]のため使用上の制約がある場合、代替語として電波・電波系が使われることがある。
* [[電波ソング]] - 派生的な使用例で、常識から外れたことを[[電子音楽]]にのせて歌う楽曲に用いられる。
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* [[エネルギー療法]] 体やメンタルの不調を薬を使わずに改善する事に期待される療法
* [[波動 (オカルト)]] SF等での[[波動]]の扱われ方
* [[陰謀論]]
{{DEFAULTSORT:てんはけい}}
[[Category:平成時代の文化]]